プログラム

当初はサテライトオフィスへのリノベーション設計という依頼でしたが、立地条件、建物の形状、地域との関係、運用方法などを勘案するとコワーキングやカフェそしてゲストハウスに加えて地域のコミュニティースペースを組み合わせることで運用計画を練り上げていきました。その結果、賃貸サテライトオフィス、ドロップイン向けコワーキング、アウトドアオフィス、一般利用できるカフェ、一棟貸しゲストハウス、地域住民向けコミュニティースペースを内包した多機能施設となっています。MNAPでは、建物の状態と立地、町への貢献出来る案件か、および採算性とオペレーションの機微に至るまでトータルに助言と仕組み作り、建築設計を提案いたします。

空き家活用

日本各地で空き家が増加しているというニュースが繰り返し目に留まるようになりました。この建物が建つ京都府笠置町は、人口約1400人の日本で2番目に小さな町であり高齢化率45%、出生率がゼロという年があったほどの少子高齢化地域となっています。そのためこの地域には多くの空き家が点在しています。今回の計画はその中の一つを町に寄付していただいたことから計画がスタートしました。

既存建物は築約80年の木造建築で、元々茅葺き屋根の建物でしたがその後瓦屋根風の板金を葺いた改修がなされていました。また内装に関しては古い内装は全て隠されており、石膏ボード等の建材で覆われた状態にありました。躯体は若干の傾きは見られましたが、築年数に対して健全な状態でした。

サテライトオフィス

既存玄関土間の西側には田の字型プランの和室が4部屋ありました。その和室の北側二部屋を賃貸のサテライトオフィスとして計画しています。床は畳を撤去し下地として使われていた荒板を仕上げ材として再利用しています。民家の田の字型プランのフレキシビリティを利活用するため、大きな平面構成と既存建具は再利用しています。そのため二部屋を一体の部屋として使用することも可能です。入居者に応じてサテライトオフィスを使用できるように計画しています。また、古い民家の特徴として壁面が少ないため一部建具を固定し建具に電気設備を集約するなど工夫しています。またカフェにサテライトオフィスの存在を示し空間の一体感を出すために既存建具は再利用しながら、既存型ガラスを透明ガラスに交換しています。

コワーキング

カサギテラスの敷地南側には木津川河川敷が広がる良好な景色があります。その景色を最大限に有効利用するため、コワーキングスペースにおいては既存縁側の開口部を改修し横長の大きな窓を設けました。そこにワークデスクを設置し、利用者が景色を楽しみながら気軽に仕事ができるスペースとしています。そして多くの人が利用できるように和室を再利用してワークスペースを用意しています。また、サテライトオフィス同様に既存建具を再利用し、透明ガラスに入れ変えることで民家をリノベーションした施設の雰囲気を積極的にアピールできるように演出しています。また制震補強金物と電気設備を収納するために既存柱に沿わせて小壁を新設し、和室を再利用しながらワークスペースとしての機能を強化しています。

ゲストハウス

物置小屋だった既存建物をゲストハウスに改修しています。小部屋は既存の間仕切りを再利用しています。トイレ、浴室、洗面は新設しています。なお、部屋の建具は母屋の既存建具を流用しコストダウンを図っています。小さな建物ですが開放感を演出するために一部小屋裏を見せる意匠としています。またバリアフリー設計にも配慮された宿泊施設としています。

アウトドアオフィス

カサギテラスの最大の特徴であるアウトドアオフィスは、この施設が笠置町の新しい変化の象徴になるように国道に対して張り出す形でデッキを配置しています。利用者は、前面に広がる木津川の景色を楽しめます。国道や河川敷からは、民家ではなくサテライトオフィス施設があると認識できるように意識的にデザインしています。サテライトオフィスやコワーキングスペースのような内部で働く場所のみならず、アウトドアオフィスを作ることでこの施設の個性が際立つとともに利用者にとっては木津川を身近に感じられることとなります。河川により発達した笠置町の歴史的な背景や現在のアウトドアを利用した観光産業と直結する木津川を身近に感じてもらうことはこの施設にとってとても重要な役割となっています。

コミュニティースペース

敷地西側に立つ別棟は将来的に地域住民が利用するコミュニティースペースとして利用する予定になっています。

コミュニティーキッチン

アウトドアオフィスに直接アクセスできる位置にコミュニティーキッチンを設けています。アウトドアオフィスの利便性を向上させるとともに、デッキを利用した地域住民とのイベントを開催する際に、食を通じたコミュニケーションを考慮しました。アウトドアオフィスに隣接するコミュニティーキッチンが有るか無いかによって施設の利便性が大きく異なると考え配置しました。利用者や地域住民との距離を近づける工夫の結果です。

カフェ

エントランスと一体的なカフェを用意しています。既存建物の玄関と台所だったスペースを改修しています。既存建物では古い梁や柱はすべて内装材によって隠されていましたが、今回の改修によってススけた迫力のある梁を露出させることとしました。またかやぶき屋根の見上げを一部露出してこの建物の特徴を垣間見せています。またこのスペースの解体は設計期間中にアーキテクトインレジデンスと称し我々が滞在しながら、地域住民の方々と話し合いを持ち最終日に解体ワークショップとして近隣住民や近郊の学生とともに行いました。

バリアフリー

アウトドアオフィスのデッキを1階床レベル2高さを合わせて設置しています。そのデッキに緩やかなスロープによりアプローチするように計画しています。アウトドアオフィスは東西に長い敷地の3棟の建物を繋ぎ施設全体をバリアフリー化しています。多くの方々に愛される施設を目指しています。

MNAPの実効性のある計画にするための実践

今回の改修設計では、設計期間中から積極的に地域住民の方々と接触し、この地域をどのように感じ将来どのようにしていきたいのかを話し合いました。地域外から来ている我々は、我々の目を通して感じられる地域の魅力を積極的に伝えていきました。特徴的な実践としては、アーキテクト・イン・レジデンスの最終日に行った解体ワークショップです。ここでは、地域住民や近郊の大学生や教員の方々を招き既存内装を解体していきました。曲がった煤けた梁や茅葺きの上げ裏や土壁など、近隣の方々にとってはなじみ深い何でも無いものが、外からやってきた若者らにとっては驚きや発見に繋がっていることを目の当たりにしたところ、少しづつ自分たちの地域や建物の再評価に繋がっていきました。そうすることでアウトドアオフィスのような、特徴的な空間についてお互いの理解を深め合いました。そして、地域住民の方々がこの建物にどのようにコミットできるのか将来ビジョンを語り合いました。また、実際にこの建物を運用するためには、ノウハウを持った運営者が必要であり、そのプレイヤーをどのように見つけていくのかについても話し合いながら進めていきました。町の課題に対して実効性のある結果に結びつけるために、設計作業もコミュニティー構築に役立つように配慮しながら進めました。地域に眠る資源を掘り起こし、新しい価値を地域の方と共有しながら、運営者に上手に再利用していただくことで実効性のある建物に生まれ変わっていきます。